【 姫と異色の英雄伝】
2012.02.26 *Edit
装備の点検を終えて、中央広場に着く頃には9:02になっていた。
「遅いですよ」
エゲリアは腰のサーベルに左手を預けながら、亀でも見るかのような目で彼を見ていた。
「二分くらいいいじゃんか」
「士官候補生が遅刻なんて教官が聞いたら命がいくつあっても足りませんよ?」
「別に授業じゃないだろうに」
彼が文句を言うと、エゲリアは突き放すように言う。
「実地研修、言葉の意味が分からないなら辞書で調べてください。それでは行きますよ」
軍帽を被り直して、エゲリアは歩き出す。
「え、いやどこに?」
「調査です。付近で事件があったそうで」
「……それ警察の仕事だろう」
「軍事機密に該当する部分もあるようなので軍が介入します。機密があるなら文民警官の仕事ではありません」
「……了解」
不服そうに歩みを進めるアキオ、彼の前方1メートル地点をエゲリアが歩く。
「なんでこんなヤツとパーティになんか。絶対何かの間違いです。これじゃあ今後の大義にさわる……」
彼女が小声でそう呟いた言葉は、幸いにも彼の耳には届いていなかった。
到着したのは近くの公民館であった。
建設されて百年以上、王国時代のものらしい。
「ここの重要文化財だそうです」
「公民館に? 重要文化財が展示されているのか」
「一般に展示されていますよ。もちろん士官候補生なら見学で来た筈ですが?」
記憶にない。
押し黙っていると、エゲリアは一瞬からかうような目をアキオに向けて、石でで来た階段を登り中に入る。
「ところでさ!」
ふと、呼び止めてアキオは疑問に思った事を聞く。
「なんで軍事機密を展示してるんだ?」
彼女はこちらを見ずに答える。
「そんなの当然、国を救った物だからです」
空を覆い尽くすイカヅチが敵を焼き尽くし、少数であったセクアニ共和国軍は、セクアニ王国とロマニア帝国に勝利したという伝説のことだろうか。
「国の根幹に関わるモノだから」
「え? どういうこと?」
首を傾げていると、一瞬の間の後に口を開く。
「文化財ですが、それ以上に独立という誇りを背負った特別な品物です。なので軍が管理しています」
「そんな大事なら仕舞っておけばいいのに」
「言ったでしょう? 誇りなのです。だから見える所にないと」
「成る程なあ」
妙に納得して歩みを進める。
中では館長が出迎えてくれた。
「まだかと首を長くしておったところだ。特務隊と言うのだろう? 伝説通りならば危険な代物じゃからの。なんとか護衛してもらいたい」
白ヒゲに白髪。
落ち着いた風格を備えた紳士であった。
「護衛……ということはまだ盗まれていないのですか?」
「そうじゃ、盗まれておったら今頃わしの首は墓地にあるじゃろうて。予告状が届いての。わざわざ時間まで」
そう言って一枚のわら半紙を持ち上げてみせる。
アキオは首を傾げる。
「愉快犯じゃ無いんですか?」
わざわざこのセクアニ共和国で、宣言して犯罪をするのは自殺行為も甚だしい。
「それはない。以前にも同様の手口で盗まれたのじゃ。味をしめたのかまた予告状を叩きつけてきたので依頼したという訳じゃ」
エゲリアが口を開く。
「護衛対象は?」
「うむ、こっちの鍵なんじゃがな」
重い扉を押し開けた。
その先には、厚いガラス張りのケースの中に両手に収まるほどの大きさの鍵が置いてあった。
「……これが軍事機密なのか?」
自分の初めての仕事を初めて投げ出したくなった。
それほど朽ちていて、言われなければ木片だと思って捨ててしまいそうな代物だった。
「いや、あれ?」
ふとひっかかり、記憶を探る。
「どうしました?」
「……何処かで見たような」
エゲリアは像を見たまま答えた。
「それは以前に見学に来たからじゃないですか?」
「それもそうか」
特に気も止めずに思考するのをやめた。
「遅いですよ」
エゲリアは腰のサーベルに左手を預けながら、亀でも見るかのような目で彼を見ていた。
「二分くらいいいじゃんか」
「士官候補生が遅刻なんて教官が聞いたら命がいくつあっても足りませんよ?」
「別に授業じゃないだろうに」
彼が文句を言うと、エゲリアは突き放すように言う。
「実地研修、言葉の意味が分からないなら辞書で調べてください。それでは行きますよ」
軍帽を被り直して、エゲリアは歩き出す。
「え、いやどこに?」
「調査です。付近で事件があったそうで」
「……それ警察の仕事だろう」
「軍事機密に該当する部分もあるようなので軍が介入します。機密があるなら文民警官の仕事ではありません」
「……了解」
不服そうに歩みを進めるアキオ、彼の前方1メートル地点をエゲリアが歩く。
「なんでこんなヤツとパーティになんか。絶対何かの間違いです。これじゃあ今後の大義にさわる……」
彼女が小声でそう呟いた言葉は、幸いにも彼の耳には届いていなかった。
到着したのは近くの公民館であった。
建設されて百年以上、王国時代のものらしい。
「ここの重要文化財だそうです」
「公民館に? 重要文化財が展示されているのか」
「一般に展示されていますよ。もちろん士官候補生なら見学で来た筈ですが?」
記憶にない。
押し黙っていると、エゲリアは一瞬からかうような目をアキオに向けて、石でで来た階段を登り中に入る。
「ところでさ!」
ふと、呼び止めてアキオは疑問に思った事を聞く。
「なんで軍事機密を展示してるんだ?」
彼女はこちらを見ずに答える。
「そんなの当然、国を救った物だからです」
空を覆い尽くすイカヅチが敵を焼き尽くし、少数であったセクアニ共和国軍は、セクアニ王国とロマニア帝国に勝利したという伝説のことだろうか。
「国の根幹に関わるモノだから」
「え? どういうこと?」
首を傾げていると、一瞬の間の後に口を開く。
「文化財ですが、それ以上に独立という誇りを背負った特別な品物です。なので軍が管理しています」
「そんな大事なら仕舞っておけばいいのに」
「言ったでしょう? 誇りなのです。だから見える所にないと」
「成る程なあ」
妙に納得して歩みを進める。
中では館長が出迎えてくれた。
「まだかと首を長くしておったところだ。特務隊と言うのだろう? 伝説通りならば危険な代物じゃからの。なんとか護衛してもらいたい」
白ヒゲに白髪。
落ち着いた風格を備えた紳士であった。
「護衛……ということはまだ盗まれていないのですか?」
「そうじゃ、盗まれておったら今頃わしの首は墓地にあるじゃろうて。予告状が届いての。わざわざ時間まで」
そう言って一枚のわら半紙を持ち上げてみせる。
アキオは首を傾げる。
「愉快犯じゃ無いんですか?」
わざわざこのセクアニ共和国で、宣言して犯罪をするのは自殺行為も甚だしい。
「それはない。以前にも同様の手口で盗まれたのじゃ。味をしめたのかまた予告状を叩きつけてきたので依頼したという訳じゃ」
エゲリアが口を開く。
「護衛対象は?」
「うむ、こっちの鍵なんじゃがな」
重い扉を押し開けた。
その先には、厚いガラス張りのケースの中に両手に収まるほどの大きさの鍵が置いてあった。
「……これが軍事機密なのか?」
自分の初めての仕事を初めて投げ出したくなった。
それほど朽ちていて、言われなければ木片だと思って捨ててしまいそうな代物だった。
「いや、あれ?」
ふとひっかかり、記憶を探る。
「どうしました?」
「……何処かで見たような」
エゲリアは像を見たまま答えた。
「それは以前に見学に来たからじゃないですか?」
「それもそうか」
特に気も止めずに思考するのをやめた。
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